なぜ線香を寝かせるのか

はじめてご門徒さんのお宅に伺って、お内仏(仏壇のこと)でおつとめをさせていただいた時のことです。蝋燭に火をつけ、線香に火をつけ、合掌して、さぁおつとめするぞという時に、うしろから「浄土真宗では線香は寝かせるもんだ」とご門徒さんのお叱りの声。その声に冷や汗が出たことを鮮明に覚えています。私の僧侶としての初仕事はお叱りから始まったのでした。
私は線香は立てるものだとずっと思っていたのです。テレビドラマなどで見る線香は必ず立っていますから。寺で生まれ育ちましたが、線香を寝かせるということは知らなかったのでした。今思えばよくぞ叱ってくださったと思います。

さて、なぜ浄土真宗では線香を寝かせるのでしょうか。答えは、寝かせた線香の上に抹香(まっこう)を投じて焼香するためです。線香を立てていては焼香ができませんからね。

焼香の薫りは、わけへだてなく全ての人に行き渡る、仏の徳をあらわしています。私たちは、わけへだてるのが好きなのです。わけへだてをして優越感に浸ってみたり、逆に劣等感にさえなまれたり。そういうところで苦しんでいるんだとはっきりと照らし出すのが仏の教えです。焼香は、実は仏さまのためにするのでなく、焼香をする私たち自身のためのものなのでした。